原案:剣世 炸/加賀 那月
          著:剣世 炸
          
          
          Episode4「王都陥落」 第1話 〜予兆〜
          
           レイスのアジトで一晩を過ごし疲れを癒した俺たちは、あの寺院まで戻ると内部に転がっていた多くの亡骸を寺院の外へ集め、供養した。
          
          「…どうか…どうか安らかにお眠り下さい…」
          
           犠牲者の亡骸が葬送の炎に包まれる中、アルモは涙を流しながら呟いていた。
          
          「(…きっとこの中には、アルモ達の敵であるワイギヤ教団の信者もいたんだろうに…アルモは本当に…)」
          
           そう思った次の瞬間には、アルモはいつもの表情に戻っていた。
          
          「…どうしたの、アコード?」
          
          「いや、何でもない」
          
          「??」
          
          「さぁ、これで死者の供養は済んだ。王都に向け、出発しよう」
          
          「まだ燃え盛っている、この状態でこの場を離れていいのか?」
          
          「アコード、心配するな。後のことは近くの村の村長にお願いしておいた」
          
          「さすが、フォーレスト国の近衛隊長ね」
          
          「…身分なんて、こんな時位しか活用する機会はないがね…」
          
          「身分を気にしないと言えば、アコードもそうよね…」
          
          「俺か!?」
          
          「そう。だって、あなたもフォーレスタ村の次期村長じゃない」
          
          「まぁ、そういうことになるけど、あまり実感はないな…」
          
          「アコードのお母さんは、まだまだお元気だったしね…」
          
          「へぇ、あんたは、村長さんの息子さんだったのかい?」
          
           そんな世話話をしながら、王都への道を俺たちは進んでいた。
          
           途中、『偵察』としてレイスが先に行き、小半時程街道を歩いた頃、王都側からフォーレストの住人と思しき人々と、ちらほらとすれ違うようになっていた。
          
           最初は会話に夢中ですれ違う人々の細部にまで気が回らなかった俺たちだったのだが…
          
          「…ねぇ、いますれ違った人…何だか着ている洋服、すごくボロボロじゃなかった?」
          
          「えっ!?」
          
           アルモにそう言われ、俺とガイーラは後ろを振り返る。
          
           確かにアルモの指摘通り、風に靡いているマントの隙間から見える着衣は、そこかしこにぼろ穴が開いていて、風に靡くマントそのものも、焼け爛れた跡のようなものがあるように見える。
          
          「…確かに様子がおかしい…おっ!?また王都の方から人だ…」
          
           ガイーラの言葉で正面に向き直った俺とアルモは、王都からこちらに向かってくる複数の人影を確認した。
          
           その先頭は、車輪を左右に2つ付けただけの粗末なリアカーの上に、わずかな食料や自宅から持ち出したであろう備品を載せていた。
          
          「…よし、あの家族に聞いてみよう。何か分かるかも知れない…」
          
           数分後、その家族とのすれ違いざまに、ガイーラが胸につけた紋章を見せながら、家長と思しき男性に話しかけた。
          
          「ちょっと失礼します」
          
          「…その紋章は、フォーレスト近衛隊の…」
          
          「私は、近衛隊長のガイーラと申します。あなたたちは?」
          
          「私たちは、フォーレスト王都で暮らしていた者です」
          
          「…王都で、フォーレストで、何かあったのですか?」
          
           リアカーに載ったわずかな荷物を指差し、ガイーラが問う。
          
          「(確かに、引越しをするには荷物が少なすぎる…)」
          
          「いや、それが、その…」
          
           家長と思しき男性の顔が、みるみると青ざめていく。
          
          「…どうしたんです」
          
          「あたしたちの住んでいたお家、きょーだんの人たちに燃やされちゃったの…」
          
          「こらっ、あなたは…」
          
          「教団の人たちに燃やされた?」
          
          「ハハハ、隊長さん。何でもありませんよ。子どもの戯言です…」
          
          「…」
          
          「(…子どもの戯言にしては、話の内容が具体的過ぎる…)」
          
          「それでは、私たちは先を急ぎますので、これにて失礼します」
          
           そう言い話を強引に中断させたその男性は、家族をつれ俺たちの元を立ち去った。
          
          「…やっぱり、王都で何かあったんだわ…」
          
          「そのようだな…」
          
          「あの子ども…『教団』の人たちが燃やしたとか言ってたよな!」
          
          「…確かに私もそう聞こえたわ」
          
          「事の真意は定かじゃないが…おっ、レイスが戻ったみたいだ…」
          
           偵察のため俺たちの先を行っていたレイスが、血相を変えて戻ってきた。
          
          「主!!大変です!!!」
          
          「レイス、どうしたんだ!?」
          
          「王都が…フォーレストの城下町が、ワイギヤ教団軍の襲撃に遭い、ワイギヤ軍によって陥落した模様です!!」
          
          「!!」
          
          「(…王都が陥落した、だと…)」
          
          「レイス!それは本当か!?」
          
          「遠くからですが、私の目で確認してきました。城下町は無数の炎で焼かれ、城壁にはワイギヤ教団軍の旗が掲げられていました。各城門からは、戦火を逃れようと多くの国民が脱出を試みておりました」
          
          「…レイス!お前が見たその場所にすぐ案内してくれ」
          
          「かしこまりました」
          
          「アルモとアコードはどうする?」
          
          「私たちも行くわ!ねぇ、アコード!」
          
          「もちろんだ」
          
          「レイス、案内を頼む」
          
          「はっ!」
          
           俺たち3人は、レイスを先頭にフォーレスト城が一望できるという高台に向かい、走り出した。