原案:剣世 炸/加賀 那月
          著:剣世 炸
          
          
          Episode4「王都陥落」 第4話 〜隠れ通路〜
          
           城門でレイスたちと別れて数分後、俺たち3人はフォーレストの王城前に到着していた。
          
           フォーレスト王城は周囲を堀と塀に囲まれた、堅固な守りで知られる城だった。
          
           故に…
          
          「…信じられない…」
          
           物陰に身を潜めながら、王城を眺めるガイーラが絶句する。
          
          「…塀の上に掲げられていた国旗が、全部ワイギヤ教のものになってるわ…」
          
          「これって、つまり…」
          
          「王城は、ワイギヤ教軍によって占領された、という意味ね…」
          
          「堅固な守りで知られた王城が、こうも簡単に落とされてしまうとは…」
          
          「…王都の兵士の中に、ワイギヤ教の間者が居たんじゃ…」
          
          「!!」
          
          「確かに、それならフォーレスト国が魔法の研究を極秘裏に行っていたことを、教団が知ったことの説明にはなるわ。でも…」
          
          「…身内を疑いたくはないのだが、今となってはそれしか合点の行く説明が、俺にも思いつかない」
          
          「…どうする?ガイーラ。このまま引き下がるか?」
          
          「いや…夜を待って侵入しよう。俺に考えがある…」
          
          「考えとは?」
          
          「まぁ…その、あれだ。城の兵士だからこその、『裏技』的なものだな…」
          
          「???」
          
          「???」
          
          「詳しくは、夜になってからだ」
          
           俺たち3人は、夜になるのを待つことにした…
          
          * * *
          
           夕日が西の空に落ち、夜の帳が降りかけた頃、俺たち3人はレイスと合流した。
          
           あの男の子は、無事に近くの集落に預けられたようだ。
          
          「よし、それじゃ潜入作戦を開始するとしよう」
          
           そう言うとガイーラは、ついて来いという合図を手で送りながら、王城とは反対側の、狭い路地へと入っていく。
          
           何事もなかったかのようにガイーラの後をついていくレイスの背中を追うように、慌てて俺とアルモが後に続く。
          
          「レイス…」
          
          「何だ、アコード」
          
          「本当に、こっちでいいのか?王城からどんどん離れていく気がするんだが…」
          
          「主のやることに無駄なことはないはず。黙ってついて行けば良い」
          
          「…」
          
           どうやら、レイスにもガイーラが何を考えているのかは分からないようだ。
          
           しばらくすると、古井戸のある袋小路にたどり着く。
          
          「ここで道は途切れているわね…」
          
          「…そう言えば、こっちの方は延焼を免れているようだな…」
          
          「占領した王城を守るために、ワイギヤ軍も考えて放火をしたようね」
          
          「この土地は、常に王城の後ろに聳える山脈から吹き降ろされる風が吹いている。だから、城下町で火の手が上がっても、王城には絶対に火が移らないのさ」
          
          「なるほどね…それで、どうするの?ガイーラさん…」
          
          「それなんだが…アコード!ちょっと手伝ってくれ!!」
          
          「ああ、構わないが、何をすればいいんだ?」
          
          「井戸の反対側に回って、俺と一緒に石の蓋を地面に降ろして欲しいんだよ」
          
          「了解」
          
          “ギギギギギギギギ…”
          
           石蓋と、石で作られた井戸が擦れ合う音が周囲に木霊する。
          
           半分位開いたところでガイーラが力を緩めたので、俺もそれに従う。
          
          「この古井戸は、王城への隠れ通路に繋がっている。俺も兵卒だったころは、この隠し通路の世話になったものだよ…」
          
          「街へ遊びに繰り出すために、とか?」
          
           少し頬を膨らませたアルモがガイーラに問う。
          
           って、なんでアルモは頬を膨らませているんだ!?
          
          「いや…まぁ、そんなところさ。さて、ワイギヤ教軍の兵隊に見つからないうちに、早く侵入してしまおう!」
          
           ばつが悪くなったからか、ガイーラはそう言うと、古井戸に設置された梯子でさっさと下へ降りていってしまった。
          
          「さぁ、2人も主に続いて!!」
          
          「アルモ、行こう!」
          
          「…」
          
          「アルモ?」
          
          「えっ!?」
          
          「大丈夫か?アルモ…」
          
          「もっ…問題ないわ。ガイーラさんに続けばいいんでしょ!?」
          
          「殿(しんがり)は私が務める。2人は早く中へ」
          
           レイスに促され、アルモに続いて俺も古井戸の中へ入っていった。
          
          「…やっと来たか」
          
          「…これは…ヒカリゴケ!?」
          
           古井戸の梯子を降り切ると、そこにはヒカリゴケが繁殖した洞窟だった。
          
          「先々代の国王の命で、洞窟に繁殖させたそうだ。松明がなくても、緊急時に困らないよう、とね」
          
          「なるほど。ヒカリゴケが天然の松明となっているわけか」
          
          「フォーレストは植物の研究が盛んに行われている地域だからな」
          
          「その研究を隠れ蓑に、教団に内緒で魔法の研究もやっていたんだけどね…」
          
          「…兎に角、先に進もう。こっちだ」
          
           ガイーラを先頭に、俺たち4人はワイギヤ教軍に占領された王城へ侵入するため、ヒカリゴケの洞窟を奥へと進んでいった。