原案:剣世 炸/加賀 那月
          著:剣世 炸
          
          
          Episode4「王都陥落」 第5話 〜侵入〜
          
           コカリゴケに囲まれた洞窟を奥へと進んだ俺たち4人は、王城裏口付近へと続く梯子の前までたどり着いていた。
          
          「…ここから、王城の近くに出れるんだな」
          
          「そうだ。引き続き、俺が先に梯子を登るから、後に続いてくれ」
          
          「了解」
          
          「分かったわ」
          
          「主の思うがままに」
          
           金属製の梯子は、俺たちの登る歩調に合わせ、“カン・カン”という音を出している。
          
          「…この音で、敵に気づかれないかしら…」
          
          「この通路の存在は、一部の兵隊しか知らない。それでいて、王城側の出入口は、普段人気(ひとけ)の全くない場所だ。恐らくは、大丈夫だろう」
          
           2、3分程登っただろうか。先頭を行くガイーラが昇るのをやめる。どうやら、出入口まで登り詰めたようだ。
          
          「ちょっと待ってくれ………ウッ…ウォリャ!」
          
           足をうまく梯子にかけ、先頭のガイーラが石の蓋を掛け声と共に横にずらしていく。
          
          「みんな、砂や埃が落ちてくるから、下を向いて目を閉じるんだ!」
          
           ガイーラの忠告に、3人が忠実に従う。
          
          “ギギギ…”
          
           石の蓋が横にずれると同時に、ガイーラの忠告通り、砂や埃が上から振ってくる。
          
          「…みんな、もういいぞ」
          
           ゆっくりと目を開け見上げてみると、石の蓋が半分程開いた状態だった。そこから月明りがまぶしい程に照らされ、その光に負けたヒカリゴケの発光が無くなっているのが分かる。
          
          「…外には誰もいないようだ。外に出よう」
          
           周囲を確認したガイーラが外に出ると、それに続いて俺を含む3人が順番に外に出る。
          
          「主。この後は?」
          
          「…この近くに勝手口がある。そこから場内に侵入しよう」
          
          「ここからは、ワイギヤ軍との戦闘を避けることは、恐らくできないだろう」
          
          「気を引き締めていかなきゃね!」
          
          「そうだな!!」
          
          「勝手口はこっちだ。行くぞ!」
          
           再びガイーラを戦闘に、俺たちは勝手口へと向かう。
          
           途中、城壁を見回っているワイギヤ軍兵士を目視で確認した俺たちは、それをうまくやり過ごし何とか勝手口までたどり着いた。
          
          「よし!何とかここまでは誰にも気づかれずに来たな」
          
          「ここからはどうするの?」
          
          「やはり、ここも俺が先に行って中を確認して来よう。それが、一番スムーズに陛下のところまで行けるはずだ。皆は、ここで待機していてくれ」
          
           そう言うや否や、勝手口から城内へ侵入するガイーラ。
          
          「それでは、私はこの周囲の警戒に当たろう。主が戻ってきたら、猫の鳴きまねをして呼んでくれ」
          
           そう言うや否や、偵察を始めるレイス。
          
          「…何だか、ごめんなさい。アコード…私の…私たちの戦いに巻き込んでしまって…」
          
          「何で、君が謝る必要があるんだ!?」
          
          「だって、あなたはフォーレスタ村の跡取りで、あそこにいれば村長の座が約束されていた訳で…」
          
          「例えそうだとしても、母さんは何もしないで俺を村長にはしなかっただろうな…『フォーレスタ家は、村民と共にあれ』が家訓だから…」
          
          「村の長っていうのも、案外大変なのね…」
          
          「まぁ、でも俺は気の置けない友だちが2人、いや、今は3人も居てくれる。それだけで、俺は幸せなんだと思うよ」
          
          「(アルモ。君のお陰で、俺は変わることができそうなんだ。それに、大切な友だちも…)」
          
          「3人!?シューさんとサリットさんと、後は?…」
          
          「…アルモ!君だよ…」
          
          「えっ!?」
          
           別に恋の告白をした訳でもないのに、顔を真っ赤にする俺。
          
           そして、心なしかアルモの顔も、薄紅色に染まっているように見えた。
          
          「まぁ兎に角、今はフォーレスト国王陛下の安否を確認して、もしご無事だったら、フォーレスタ村までご案内しよう。母さんが今ここにいたら、きっとそうしろと言うに決まってるし」
          
          「そうね。アコードがそう言ってくれるなら、フォーレスタ村にご案内しましょう」
          
          “コツコツコツコツ”
          
          「どうやら、ガイーラが戻ってきたようだ」
          
          “にゃ〜お…”
          
           アルモが可愛い猫の鳴きまねをする。
          
          「…どうしたの、アコード…」
          
          「いや、アルモの猫まね声、可愛いなぁと思って…」
          
          「!!」
          
           思わず本音が口を突いて出てしまい、赤面する俺。
          
          「…普段は、こんなことしないんだから、ね…」
          
           恥ずかしそうにそっぽを向くアルモ。
          
          「???どうしたんだ、2人とも…」
          
           そんな俺たちを見て疑問に思う戻ってきたレイス。
          
          「いや、レイス。何でもないんだ」
          
          「???」
          
          「…大変だ!謁見の間の方向から、剣のぶつかり合う音が聞こえてくるんだ!」
          
           戻ってくるや否や、急報を伝えるガイーラ。
          
          「それじゃ、陛下は今…」
          
          「恐らくお一人か、もう一人の近衛隊長と連携して戦闘をしているのだと思う」
          
          「いずれにしても、早く謁見の間へ向かった方が良くない?」
          
          「アルモの言う通りだ。主、早く謁見の間へ…」
          
          「俺も、そうした方が良いと思う」
          
          「…よし、決まりだな。謁見の間へと急ごう」
          
           俺はアルモからもらったショートソードを鞘から抜くと、臨戦態勢のままガイーラの後に続き、勝手口から城内へと侵入した。