原案:剣世 炸/加賀 那月
          著:剣世 炸
          
          
          Episode4「王都陥落」 第6話 〜裏切り?〜
          
           勝手口からの侵入に成功した俺たちは、ガイーラを先頭に謁見の間へと向かっていた。
          
          「…それにしても、ワイギヤ軍の兵隊が全く現れないわね…」
          
          「…外壁には占領を示す旗の掲揚、町への放火、放火による城内への延焼は地形の関係から心配されない…そんな状況下で、占領した城内に人っ子一人姿が無いというのは…」
          
          「主、心当たりはお有りか?」
          
          「特に思い当たるふしはないが…考えられることと言えば、既に国王陛下が殺害されたか国外へ連れ出されたかで、フォーレスト自体を占領の価値なしと判断し、王城と城下町双方を放棄したか…」
          
          「確かに、放棄したというなら、この状況の説明にはなるわね」
          
          「…でも、そうなった場合、フォーレスト国の国家体制はどうなってしまうんだ!?俺の村も微弱ながらもフォーレスト国の守りがあったからこそ、今日まで成立していたのだし…」
          
          「そう言われてもな…いずれにしても、まずは国王陛下の安否を確認しよう。考えるのは、それからでもいい」
          
           フォーレスタ村の村長一族の血が騒いだのか、俺は思わずガイーラに詰め寄るような言い方をしてしまった。
          
           だが、ガイーラは俺の詰め寄りを軽くかわし、再び俺たちの先頭を歩き始めた。
          
           その数分後、俺たち4人は大きな重厚感のある扉の前まで来ていた。
          
          「ここが、謁見の間への入口だ」
          
          「扉が閉まっているわね…」
          
          「正面から正々堂々突入するか!?」
          
          「アコード、それじゃ無策にも程がある…」
          
          「レイス、冗談だよ…アルモ、どう思う?」
          
          「そうね…ガイーラさん、謁見の間へは、この扉を通るしかないの?」
          
          「ああ。万が一の時は、この場所が陛下を守る最終防衛ラインになるからな…背後を突かれるようなことがあってはならない訳で、入口はこの扉しかない…」
          
          「それじゃ、冗談じゃなく強行突破するしかないんだな…」
          
          「待て!私に策がある…」
          
          「レイス。策とは?」
          
          「これです。主」
          
           すると、レイスは右の手のひらを皆の前に差し出すと、魔法で鼠を作り出して見せた。
          
          「これは『アオーフ』という魔法で、この鼠が見たものを私の目に映し出すことができる」
          
          「便利な魔法ね!」
          
          「ただし、もしこの鼠に何かあれば、私の体にも同様の事象が起こってしまう。便利ではあるけど、その分リスクも大きいのさ…」
          
          「レイス…そんな危険な魔法を、使ってくれると言うのか…」
          
          「ヘマはしませんから、主は安心して見ていて下さい」
          
          「レイス、気をつけて…」
          
          「何かあったら、すぐに魔法を解除した方がいいわ…」
          
          「アルモにアコードも、ありがとう…」
          
           そうレイスが言うや否や、手のひらに乗っていた魔法の鼠は、レイスの腕、脇の下、そして足を通り地面に到達すると、扉の隙間から中に入って行った。
          
          「どうだ、レイス。中の様子は…」
          
          「…どうやら、誰もいないみたいです」
          
          「とりあえず、入口付近に誰もいないんだから、扉を開け中に入ってみた方がいいんじゃ…」
          
          「そうだな…レイス。魔法を解いてくれ」
          
          「承知しました」
          
           レイスの集中が解かれ、それまで眉間に寄っていた小さなシワが顔から消え失せる。
          
          「それじゃ、俺とアコードが扉を開くから、アルモとレイスを先頭に、謁見の間に突入してくれ」
          
          「レイスの魔法では、中には誰もいないように映ったようだけど、奥の奥に敵が隠れているかも知れない。アルモとレイス、突撃する際は十分に注意してくれ」
          
          「アコード、心配してくれてありがとう!でも、私は大丈夫よ。それにレイスも、ね」
          
          「ああアルモ。それよりも、私たち2人に遅れを取るなよ、アコード」
          
          「分かった」
          
          「それじゃ、12の3で扉を押すぞ…1…2の…3!!」
          
          “ギギギギギギギ…”
          
           重厚感のある観音開きの大きな扉が、音を立てて開いていく。
          
           そして、人1人通れる隙間が出来た瞬間、アルモ、レイスの順番に中に突入する。
          
          「私たちも行くぞ、アコード」
          
          「ああ!!」
          
           そして、扉を押すのを止めた俺、更にはガイーラが殿で中に突入した、はずだった。
          
          “ギギギギギギキ…”
          
          “バッタン”
          
          「??」
          
           突入して間もなく、今潜り抜けた扉が閉じる音が後方から聞こえてきたため、その場に立ち止まり俺は振り返った。
          
          「…ガイーラさん!何をやっているんですか!?」
          
          「主…これは一体…」
          
           俺よりも先に異変に気付き、入口方向に向き直った2人が、ガイーラに問う。
          
           振り返った俺の目に映ったのは、扉に手をかざし、魔法の力でそれを閉じているガイーラの姿だった。
          
          「ガイーラ…お前は一体…」
          
           扉を閉め終えたガイーラが、俺たち3人の方に向き直る。
          
          「…ガイーラ…さん?」
          
          「…主…なんですか?」
          
           ガイーラの顔を見たアルモとレイスが、怯えた声で問いかける。
          
           3人の目に映ったのは、この世のものとは思えない程に歪んだ、ガイーラの顔だった。