原案:剣世 炸/加賀 那月
          著:剣世 炸
          
          
          Episode7「三日月同盟」 第11話 〜ヴァジュラ〜
          
           本来の主の下に戻った剣と盾は、再び月明りの輝きにその姿を戻した。
          
           そして、シューに成りすましていた人物の、本当の姿が明るみとなった。
          
           左手には鋭い切っ先を持つ細剣(レイピア)を持ち、右手には小型の盾を持っている。
          
           背格好は俺と同じ位。年齢は、俺たちよりも少し年上だろうか。
          
          「あなたは………何者!?」
          
          「私の名はヴァジュラ!教団に仇成す輩を屠る者!!」
          
          「…一体、いつからシューに成りすましていた!?」
          
          「お前らが港町でザイールと合流した時からだ」
          
          「シューは…それにサリットとザイール殿は、無事なんだろうな!?」
          
          「異端者にそこまでする義理はないが…今姿を見せてやろう」
          
           ヴァジュラが入口付近で待機している教団兵に合図を送ると、口には猿轡(さるぐつわ)を、両手に手枷(てかせ)を付けさせられた3人が、奥から姿を現した。
          
          「!!!!!!」
          
           三人とも声にならない声をあげ、俺とアルモにSOSを送っているのが分かる。
          
          「シュー!サリット!!」
          
          「ザイール!!大丈夫!?」
          
          「!!!!!!」
          
           3人とも何か言いたげだったが、猿轡が邪魔をして言葉にならない。
          
          「それにしても、アーティファクトの力がこれほどとは…抜かったわ!」
          
           確認するように自分の体の各所を摩りながら、ヴァジュラがつぶやく。
          
          「3人を放しなさい!!」
          
          「放せと言われて、素直に『はいそうですか』って開放する奴がどこにいる!!」
          
          「ちっ…」
          
          “ピカッ”
          
           その時だった。
          
          「…アルモォォォォォ!!貴様、何をしたぁぁぁ!?」
          
           ヴァジュラの言葉でアルモを見ると、左腕にすっかり馴染んだ光の盾(ガーター)が神々しく輝いている。
          
           そして、その光は教軍に囚われている3人を包み込み、不思議な力で次々と拘束が解かれていく。
          
          “ピカッ”
          
           再び神々しい光を放つと、次の瞬間にはそれは失われ、光の盾は元の姿に戻っていた。
          
           そして、光の盾の力により拘束を解かれた3人が、俺とアルモの元に駆け寄る。
          
          「アコード…すまない。俺としたことが、油断した…」
          
          「シュー!それにサリットとザイール殿も、無事で何よりだ」
          
          「小さい頃から一緒にいたシューが偽物と入れ替わっていることに気づかないなんて…私もまだまだね…」
          
          「それだけ、将軍の力は侮れないということさ」
          
          「…用意周到な計画をこうも簡単に打ち破るとは………やはりアーティファクトをこのままにしておく訳には行かぬ!多少計画とは異なるが、まぁいい。どのみち、お前らは我が剣の錆になるのだからな!!」
          
           レイピアをこちらに向け、戦闘態勢を整えるヴァジュラ。
          
           それに呼応するように、陣を組み今にも突撃してきそうな入口付近のワイギヤ教軍の兵隊。
          
          「……ここは二手に別れよう。シュー、サリット、ザイール殿の3人は入口付近の兵士を。ヴァジュラは俺とアルモで仕留める。それでいいな、みんな!」
          
           俺の言葉に無言で頷く4人。
          
          「ヴァジュラ!行くぞ!!」
          
          「本部のみんなの仇!ここでとらせてもらうわ!!!」
          
          “ザザッ”
          
           次の瞬間、俺たちはそれぞれの敵に向かって地面を蹴っていた。
          
          
          
          「私の横を通れると思うたか!!」
          
           作戦に気づいたのか、アコードとアルモに向けていたヴァジュラの切っ先が、俺たち3人に向かう。
          
           先陣を切っていた俺がそれを見た矢先…
          
          「シュー!そのまま走れ!!!」
          
           後方から、ウァジュラへの突撃を止めたアコードの声がする。
          
           刹那…
          
          “シュ……シュシュシュシュシュ…”
          
           後方から、光でできた無数の矢がヴァジュラめがけて放たれた。
          
          「ヴァジュラ。言ったでしょ?あなたの相手は私とアコードだって!!」
          
          “ザシャ…ザシャザシャザシャザシャ……”
          
          “ササッ”
          
           聖なる矢(ホーリーアロー)を放たれたヴァジュラの得物は、それを撃ち落とすことに集中せざるを得なくなり、俺たち3人は無事ヴァジュラの横をすり抜けることに成功した。
          
          「…小癪な真似を!!」
          
          「アルモ!ありがとう!!」
          
          「アコード!油断するなよ!!」
          
          
          
          
          「…まぁ、いい。我が兵は烏合の衆ではない。お前たちが入口を託したあの3人も、再び我が軍の拘束を受けることになるだろう」
          
          「…私には、少し苦しい強がりに見えるけど?」
          
          「小娘が…言ってくれる!!」
          
          「俺たちの仲間を、甘く見ない方がいいってことだ!」
          
          「…私も、甘く見られたものだ…先ほども言ったはずだ。『烏合の衆ではない』と…」
          
          「例え、お前以外の将がいたとしても、こちらにはザイールがいるわ」
          
          「それに、シューとサリットもワイギヤ教軍の兵の餌食になるようなことはないだろう!」
          
          「……その答えは、おのずと分かることになろう……だが、残念だったな。お前たち2人はその答えを知ることは叶わぬ!」
          
          「それは、俺たちと剣を交えてから言ってもらおうか?」
          
          「ヴァジュラ…覚悟しなさい!!!」
          
          「ほざけ!!!!」
          
          “ザザザッ”
          
           俺とアルモ、そしてヴァジュラの3人は、同時に地面を蹴った。
          
          
          第12話 に続く