原案:剣世 炸/加賀 那月
          著:剣世 炸
          
          
          Episode7「三日月同盟」 第17話 〜総帥ザイール〜
          
          “ピカッ”
          
           眩い光が納まると、そこには漆黒の闇に包まれた、広大な森が広がっていた。
          
          「…戻ってきたのね、私たち」
          
          「そうだな」
          
          「同盟本部の洞窟に長く居たから分からなかったけど、外は夜になっていたんだな…」
          
          「さて、急いで母さんのところに行こう」
          
           朽ちかけた村の入口を示す木造のアーチを潜り、足早に実家へと向かう。
          
           数分後…
          
          “バタン”
          
           ドアを開けた瞬間、懐かしい実家の匂いに美味しそうな料理の匂いが混じり、それを嗅いだ俺に何とも言えない安堵感が押し寄せる。
          
          「母さん、ただいま!」
          
          「アコード!そろそろ戻ってくる頃だと思って、待っていたんだ」
          
          「えっ!?」
          
          「母さんの魔力を、バカにしちゃいけないよ!私には、ちょっとした未来予知の魔法も使えるのさ。さぁ、4人とも椅子に掛けなさい」
          
          「はい」
          
          「ありがとうございます」
          
           俺たちが椅子に腰かけると、母さんがパンや野菜のスープ等をテーブルに運び込んできた。
          
          “キュゥゥゥゥ”
          
           金色の髪の乙女が、顔を真っ赤にしてその場にうつむく。
          
          「…そっ…そう言えば、俺たち本部に潜入してから、何も口にしていなかったよな…」
          
          「たっ…確かにそうね。私とザイールも、アコードとアルモが宿を出発してすぐに拘束されたから、同じようなものよ…」
          
          「俺なんかもっと酷い。俺とヴァジュラが入れ替わって、教軍の捕虜になってからロクなものが出なかったんだぜ!?」
          
          「まぁ、そう言う訳だから…アルモ、気にするな」
          
          「…ウン…」
          
          「おや?どうしたんだい!?皆変な顔をして…」
          
          「…」
          
          「…」
          
          「お腹がすいているんだろう!?話は腹ごしらえをしてからだ!私のことは気にしないで、先にお上がり」
          
          「…分かったよ、母さん」
          
          「おば様…ありがとうございます」
          
           俺たち4人の空腹感は、お腹の虫が騒いだアルモに限らず限界が来ていたようで、母さんの言葉が口火を切り、まるで堰を切ったように俺たちは母さんが出してくれた料理に手をつけた。
          
           その減り方があまりにも尋常じゃなかったようで…
          
          「…そんなに急いで食べなくても、まだまだ料理はあるから大丈夫だよ」
          
          と、台所から料理を運んでくる母さんにたしなめられるほどだった。
          
           一通り腹ごなしが終わった俺たち4人は、ようやっと自らの食事に有りつくことができた母さんに、本部での経緯を説明した。
          
          「…そうだったのかい。一人残されたザイールもこれから大変だろうが、頑張ってもらうしかないねぇ」
          
          「それで母さん。これから俺たちはどうすれば良いと思う?」
          
          「…アルモは、三日月同盟の各大陸に置かれた支部に行った経験は?」
          
          「残念ながら…」
          
          「光の騎士クレスと、教団の始祖ワイギヤが使っていたとされる、他の聖遺物(アーティファクト)の所在については?」
          
          「ザイールにその話を聞いてみたけど、本部に伝わるのは剣と盾だけで、それ以外のことは総帥となっていなかったから、分からなかったみたいだ」
          
          「そうか…こちらから、本部に連絡を取る手段があれば良いのだが…」
          
          「…アルモのテレポーテーションで、もう一度本部に戻って確認するのは…」
          
          「それは無理だ。テレポーテーションの魔法は、一日1回が限界なはず。そうだろ?アルモ」
          
          「おば様の言う通りよ。そう易々と、テレポーテーションの魔法は使えないことになっているのよ…」
          
          「なら、今晩はこのまま休んで、明日もう1度本部に行き、ザイール殿とコンタクトを取るというのは?」
          
          「…それが、一番良いかも知れないわね…」
          
           その時だった。
          
          “ピピピ…ピピピ…ピピピ…”
          
           どこかで聞いたことのあるような音が、家全体を包み込む。
          
          「母さん!」
          
          「おば様!この音は!!」
          
          「ああ。間違いない」
          
           その音を聞き取った母さんが右手を伸ばし、手の平を天井に向け呪文を唱え、数秒後に通信鏡が母さんの手の平の上に現れた。
          
          「本部からの通信か!?」
          
          「…きっと、ザイールさんが総帥の地位を受け継いで、本部の機能を回復させ始めたのね!」
          
          「こちらはフォーレスタ。本部、応答願います」
          
           すると、鏡の向こう側に、見慣れた顔が現れた。
          
          『こちらは、総帥を受け継いだザイール…おお!みんな揃っているな!』
          
          「ザイール!本部に使われていない通信鏡があったのね!!」
          
          『いや、これは総帥室にある非常用の通信鏡だ』
          
          「ということは、無事に総帥の地位を受け継ぐことができたんだな!」
          
          『ああ。何とかな!ところで、そこのご婦人。フォーレスタの村長殿とお見受けする。ご子息とその仲間に私は大恩を受けた。お礼を言わせて欲しい』
          
          「総帥殿。私の息子は、己の使命と向き合っただけです。気になさらないで下さい」
          
          「ザイール!実は、とてもタイミングよく連絡を入れてくれたのよ!」
          
          『…それは、きっとこれを探してのことじゃないのか?』
          
          “フウォン…”
          
           ザイールの言葉の後に、通信鏡に世界地図が映し出される。それには、所々に赤く光る場所が見受けられた。
          
          「…この世界地図は?それに、この赤い点は…」
          
          『赤い点は、主に同盟の支部が置かれた場所。そしてそれは同時に、君たち4人が今後向かわなければならない、アーティファクトの在処さ!』
          
          「「「「「!!!」」」」」
          
          
          Episode8 に続く