原案:剣世 炸/加賀 那月
          著:剣世 炸
          
          
          Episode7「三日月同盟」 第4話 〜酒場にて〜
          
           その日の日没直後…
          
          “カランコロン…”
          
          「ただいま〜」
          
          「!二人とも、先に帰ってたんだな……どうした?」
          
           シューとサリットよりも先に宿に到着していた俺とアルモは、出発前に座っていた椅子に、顔を赤らめうつむき加減になりながら座っていた。
          
          「…もしも〜し!お二人さん!大丈夫ですかぁ〜」
          
          「!!あっ!…サリットにシュー。帰っていたのか…」
          
          「帰っていたのか、じゃないぞ!それで、情報は?」
          
          「まぁ、それなりに情報を集めることはできたが…」
          
           ふとアルモの方を見ると、それまでうつむいていたはずの彼女と目が合ってしまい、俺とアルモの目線は再び床を泳いでいた…
          
          
          ***
          
          
          「…俺たちも、部屋に荷物を置きに行こうか?」
          
          「えっ…そ……そうね…そうしましょう…」
          
           シューとサリットがロビーから姿を消した直後、俺とアルモも部屋に大きな荷物を置いた後、情報収集のため町へと出発した。
          
          「まずは、どこに行く?」
          
          「比較的治安の良い場所にある酒場に行きましょ。酒場は、情報の宝庫だから」
          
          「悪いけど、道案内は頼んだ」
          
          「任せなさい!」
          
           アルモを先頭に、比較的人通りの多い道を進んでいく。
          
           数分後…
          
          「さぁ、着いたわ」
          
           中を覗くと、まだ正午過ぎだというのに、満席状態だった。
          
          「…カウンターがあいているわね…」
          
           よく見ると、マスターが忙しく動き回っているカウンターに、ちょうど二人分の空きがある。
          
          「あそこで注文してから、さりげなく情報を集めましょう」
          
          「分かった」
          
          “カランコロン…”
          
           両開きのスイングドアを開け、中に入る俺とアルモ。
          
          「いらっしゃいませ〜〜今テーブル席は埋まっているので、カウンターでお願いしま〜す」
          
           バニースタイルのウェイトレスさんの一人が、カウンターへ行くよう促す。
          
          「アコード。何にする?」
          
          「俺はラム酒かな…」
          
          「分かったわ」
          
           しばらくして、さっきのウェイトレスが注文を取りに来る。
          
          「ご注文は?」
          
          「ラム酒と、エール酒を1つずつお願い!」
          
          「他にはよろしいですか〜」
          
          「そうね…あと、ナッツ類を適当にお願いするわ!」
          
          「かしこまりました。少々お待ちください……マスター!オーダー入りま〜す…」
          
           少し離れたマスターに俺たちのオーダーを告げながら、ウェイトレスは去っていった。
          
          「…エール酒か…話でしか聞いたことないんだが、美味いのか?」
          
          「私も最初は嫌いだったわ。でも、今は好きよ。口に含んだ時の苦みが、何とも言えず心地良い、というか…」
          
          「エール酒って苦いのか…俺は、まだまだ世間について知らないことだらけだ」
          
          「私も、初めから知っていた訳じゃないし、今でも世間知らずな所もあるわ。少しずつ、見識を広げていけばいいんだと思うわ」
          
          “ドン”
          
           唐突に、酒樽を小さくしたようなジョッキに入った飲み物が目の前に置かれる。
          
          「はい、ラム酒とエール酒ね。お待ち遠さま」
          
           そういうと、マスターは足早にその場を去り、次の注文品の対応に入る。
          
          「乾杯しましょ!アコード!!」
          
           アルモが茶色のラム酒の入ったジョッキを俺に手渡し、エール酒の入ったジョッキを右手で持ち、目の前に掲げる。
          
          「乾杯!」
          
          “ゴン”
          
           木製のジョッキ同士がぶつかり、鈍い音を立てる。
          
          “ゴクゴク…”
          
          「…美味いか?」
          
           エール酒を口にしたことのない俺は、思わずアルモに尋ねた。
          
          「美味しいわよ!アコードも飲んでみる?」
          
          「良いのか?」
          
          「良いも何も…頼めばいいじゃない?」
          
          「いや…一杯頼んで飲み切れる自信はないんだ。だから、その…」
          
          「!!……………」
          
           俺の言葉の意味を理解し、顔を赤くするアルモ。
          
          「…分かったわ……はい、どうぞ!」
          
           アルモが口にしたジョッキが、俺の目の前に置かれる。
          
          「ありがとう、アルモ」
          
           そして、俺はアルモが口をつけた部分を避けて、エール酒を飲んだ…つもりだった。
          
          「!!」
          
           ところが、アルモが口をつけたジョッキに自分も口をつけるということへの緊張感からか、俺はアルモがジョッキを口にした時と同じ右手でジョッキを持ち上げ、口をつけていた。
          
          “ゴクゴク…”
          
           ここで変に戸惑ったりしたら可笑しいと思った俺は、何でもないフリをしながらエール酒を口に含む。
          
          「…確かに、これはラム酒と違って苦いんだな…」
          
          「(いやいや…味なんてこれっぽっちも分からないだろう、俺!)」
          
           正直、この時のエール酒の味は、本当に覚えていない。
          
           アルモと間接キスをしたということで、俺の気持ちは本来の目的を忘れて、舞い上がってしまっていたのだから。
          
           エール酒の入ったジョッキをアルモに返そうと思ったその時、俺は更なる緊急事態に見舞われた。
          
          「…私も…君のラム酒、もらってもいい?」
          
           頬を赤らめながら、エール酒のジョッキを返そうとした俺に問うアルモ。
          
          「えっ!…いや、その……別に構わないけど…」
          
           俺はエール酒のジョッキを手元に置き、よけておいたラム酒のジョッキをアルモの前に置く。
          
          「ありがとう!アコード!!」
          
           そしてアルモも、俺がラム酒を飲んだ時と同じ右手でジョッキを持ち、ラム酒を口に含む。
          
          “ゴクゴク”
          
          「(…あぁ…アルモも、俺と同じことをしているのか…)」
          
           アルモがラム酒を飲む光景を目の当たりにし、思わずぼーっとしながら、そのことを考えてしまう俺。
          
          「…ラム酒も、悪くないわね…」
          
           そう言って、アルモは目の前にラム酒のジョッキを置いた。
          
          「お待たせしました〜ナッツの詰め合わせで〜す………お客さん?どうされました??」
          
           互いに間接キスをしたという自覚から羞恥心に苛まれ、うつむいていた俺とアルモに酒の肴を運んできたウェイトレスが問いかける。きっと、店から出したものに不備があったとでも思ったのだろう。
          
          「何でもないです!!」「大丈夫です!!」
          
           同時に顔を上げ、同じような意味のことを必死になって言う俺とアルモ。
          
          「…分かりました♪ご注文頂いたナッツ、ここに置きましたからね!ごゆっくりどうぞ〜」
          
           店側の不祥事でないことが分かったからなのか、それとも俺とアルモの反応に微笑ましさを覚えたからなのか…ウェイトレスは笑顔で俺とアルモに告げ、その場を離れていく。
          
          「…とりあえず、食べようか…」
          
          「そうね…空きっ腹にお酒って、本当はダメだって言うし…」
          
          “ポリポリ”
          
          “ゴクゴク”
          
           その後、俺とアルモの様子をずっと終始観察していたというカウンター客から、この大陸の情報を得ること成功。酒と料理を二人で平らげると、その酒場を後にした。
          
          
          第5話 に続く