原案:剣世 炸/加賀 那月
          著:剣世 炸
          
          
          Episode7「三日月同盟」 第5話 〜ベーゼ〜
          
          「…それで、その間接キスのことを思い出して、二人して宿に戻ってから恥ずかしくなっていた、と…」
          
          「…まぁ、その……大筋そういうことなんだが…」
          
          「まだ、何かあるわね…全て白状なさい!」
          
          「えっ!?」
          
          「サリット?」
          
          「アコード…私たち、一体何年の付き合いだと思ってる?あなたが嘘をつけない性格で、尚且つ嘘をつくときの癖とか話し方とかが分からないとでも?」
          
          「…負けたよサリット…」
          
           素直に降参を認めた俺は、再び記憶の海へとその船を漕ぎ出した。
          
          
          ***
          
          
           酒場を出た俺とアルモは、更なる情報を求めて市場へと来ていた。
          
          「…それにしても、この大陸に教団の将軍が来ていようとはね…」
          
          「ヴァジュラ、とか言ってたな…通信鏡の様子から、何者かに襲われていることは分かったが、な…」
          
           酒場で俺とアルモの様子をずっと観察していたという客からの情報により、数日前ワイギヤ教団の軍隊がこの港町からグルンの王都に向かったということと、それを指揮していたのがヴァジュラという将軍であることが判明した。
          
          「ヴァジュラ…どんな奴か、アルモは知っているのか?」
          
          「話だけは聞いたことがあるわ…十二将の中で一番剣術に長け、彼の剣にかかれば切れないものはない、とまで言われているわ…」
          
          「そんなに強いのか…」
          
          「まぁ、あくまでも聞いた話だから、実際どうなのかまでは分からないけど…」
          
          「…俺とアルモが共闘して、勝ち目はあるだろうか…」
          
          「あなたの幼馴染二人のことを忘れているわよ。それに、きっと大丈夫よ」
          
          「…そうだな」
          
           辺りを見渡すと、そこには北の大地の市場とは思えない程に豊富な食材で溢れかえり、各国自慢の貿易品が所狭しと並べられていた。
          
          「これだけ貿易品が並んでいると、禁制取引条約違反の取り締まりがあっても、おかしくはないわね…」
          
          「禁制取引?」
          
          「教団が定めた貿易のルールよ。教団の教義に反するものや、道徳的に取り扱いをしてはならないもののことね」
          
          「教団がそのルールを定める前までは、確か人身売買や奴隷売買も行われていたんだったよな…」
          
          「教団の求心力維持のために、私たちが生まれる少し前に教団が奴隷の解放を宣言して、お金による人の売買を禁止したのね」
          
          「これだけ見れば、教団が世界の魔力を支配している悪い組織だなんて、誰も気づかないし思えないよな…」
          
          「ところが、これには世界には無論知らされていない裏話があって、それまで奴隷を売買させていたのは、どうやら教団の息がかかった奴隷商人たちだったそうよ…」
          
          「結局は、自分たちがやっていたことを自主規制しただけ。でも、その求心力を高めることに成功した、という訳か…」
          
          「奴隷商人たちも、禁制になることは事前に通達されていて、その前までに鞍替えを済ませていたそうだし…」
          
          「…俺たちは、そんな強大な権力を持つ相手と戦わなければならないのか…」
          
          「大丈夫!三日月同盟も、教団に負けず劣らずの組織だから、きっと勝てるわ」
          
          「…そうだな」
          
          “パカラッパカラッ…”
          
          “ヒヒーン…”
          
           その時、遠くから馬の鳴き声と蹄の音が聞こえ始めた。
          
          「…何だろう?」
          
          「!!あの旗は…」
          
           馬の後ろには馬車があり、それにはワイギヤ教軍の旗が掲げられていた。
          
          「禁制取引の取り締まり!!」
          
          「何だって!?」
          
           馬車の後ろには数十人の兵士が追随しており、馬車が市場に差し掛かるとその速度を人が歩く程度に落とし、市場に並ぶ商品を確認し出した。
          
          「まずいわ…あいつらの目的は禁制取引品の取り締まりだけど、私やアコードの顔は、人相書きで知れ渡っているはず…」
          
          「…それじゃ、俺たちを見たら…」
          
          「その場で逮捕して、教団本部に連行するでしょうね…」
          
           刹那、俺とアルモは周囲を見渡した。
          
           すると、アルモが右手に袋小路を発見し、俺に手で合図を送る。
          
          「…仕方ないわね。あそこに一旦身を隠すわよ!」
          
          「…!!でも、あそこは行き止まりじゃ…」
          
          「考えている時間はないわ!早く!」
          
           アルモは俺の手を握ると、一目散にその袋小路へとダッシュし、身を隠した。
          
           そして、壁を背にして、アルモが外の様子を伺う。
          
          「アルモ…」
          
          「…今のところ、奴らは私たちに気づいていないわ」
          
          「…気づかれたら、その時は戦うしかないのか…」
          
          「その時は、私に策があるわ…アコードは、絶対にそこを動いてはダメよ」
          
          「…了解」
          
           間もなく、馬車が通り過ぎ、その後ろに追随していた兵士たちが通り過ぎていく。
          
          「(何とか気づかれず、このまま通り過ぎてくれ!)」
          
           ところが、俺の祈りは空しく打ち砕かれ、この袋小路に数名の兵士の影が近づいてきた。
          
           そして…
          
          「アコード…ごめん!」
          
          「えっ!?」
          
           刹那、俺の両頬がアルモの両手に包まれ…
          
          「(!!目の前に、目を瞑ったアルモの顔がある…)」
          
           そして唇からは、アルモの暖かな温もりが伝わってきた。
          
          「…おうおう!真昼間からお熱いことで…」
          
          「禁制品は取り締まれと言われたが、カップルまで取り締まれとは言われておらん」
          
          「白昼堂々と…この国の将来も知れたものだな…」
          
           袋小路に近づいてきた数名の兵士達は、各々に捨て台詞を吐き捨て、俺とアルモの体に触れることもなく、袋小路から立ち去っていったのだった。
          
          
          第6話 に続く