原案:剣世 炸/加賀 那月
          著:剣世 炸
          
          
          Episode7「三日月同盟」 第8話 〜王都の宿にて〜
          
          「…ヴァジュラ様!!」
          
          「…お前か」
          
           月明りの届かない漆黒の闇の中、教軍の密偵が姿を現す。
          
          「首尾は?」
          
          「上々だ」
          
          「それはようございました」
          
          「私は当初の予定通り、このまま奴らに同行し、アーティファクトの奪取・破壊を試みる。教団本部にもそのように伝えよ」
          
          「かしこまりました」
          
          「私の隊も、予定通り行動するよう、副長に伝えてくれ」
          
          「お任せ下さい!!」
          
          “ヒュン”
          
           刹那、密偵は姿を消した。
          
          「…教団のためにも、クレスの遺品を見つけ出し、破壊せねば…」
          
          
          ***
          
          
           ワイギヤ教軍によって滅ぼされた三日月同盟本部は、グルン大陸の中央にある王都グルンニード近くの山中にある。
          
           ザイールを加え、町を出た俺たちは、途中何回かの野宿を経て王都グルンニードに到着していた。
          
          「…教団本部の場所が分かっているのに、何ですぐに向かわないんだ?」
          
          「シュー!何言ってるのよ!!」
          
          「??」
          
          「いきなり行って、教団の軍隊が駐屯していたら、どうするつもり?」
          
          「…確かに…」
          
          「サリットの言う通りだ。ザイール殿。教団の軍隊がまだ本部に駐屯している可能性は?」
          
          「ああ。十分にあり得るな」
          
          「ヴァジュラとかいう将軍がどんな攻め方をしたかにもよるけど、うまく攻めれば100人位は駐屯できるはずよ」
          
          「…それじゃ、もし占領された本部に教団の軍隊が駐屯していれば、俺たちは『飛んで火にいる』なんとやらって訳だな…」
          
          「そういうことね」
          
          「街の様子を見る限り、王都は無事なようだ。とりあえず、今日は王都の宿で英気を養い、明日、数人で偵察に行くのはどうだろうか?」
          
          「…決まりだな」
          
          「偵察は、私とアコードで行こうと思う。私は本部の詳細な場所を知っているし、万が一戦闘になったとしても、私とアコードなら凌げると思うの」
          
          「…確かにフォーレスタ村がコボルトに襲われて、それを撃退した時も、初見だったにも関わらず、アコードとアルモの連携は息ピッタリだったものね…」
          
          「ザイールも、それで良いわよね?」
          
          「そうだな…どのみち残って王都の情報収集もしておかなければならないし…それがベストだろう」
          
           そんな会話をしながら王都グルンニードを歩いていると、いつの間にかザイール行きつけの宿の前に到着していた。
          
          「さぁ、今日はここで休むことにしよう」
          
          「…入った瞬間、教団の軍隊が飛び出してくる、何てことは…」
          
          「大丈夫だ。ここの宿は、同盟とは全く無縁の宿さ。それに、宿泊の予約なんてしていないしな」
          
          「…それなら安心ね」
          
          「ああ。だが、万が一ということも考えられる。落ち着くまでは、いつでも戦闘できるようにしておこう」
          
          「そうね」
          
          「分かった」
          
          “ギィ…”
          
           こうして俺たち一行は、グルンニードの宿で一夜を明かすことになった。
          
           そして、その日の夜のこと…
          
          
           風呂に入り、夕食を終えた俺は、アルモと部屋でくつろいでいた。
          
          「ねぇ、アコード」
          
          「ん?何、アルモ…」
          
           俺は読み進めていた本のページにしおりを挟むと、テーブルにそれを置きアルモを見た。
          
           アルモは、開け放された窓から入る涼しい風に、その綺麗な金色の髪をなびかせながら、こちらを見ていた。
          
           すると、アルモは急に頬を赤らめ、途切れ途切れになりながら、声を出した。
          
          「…その………港町……でのことだけど………さ……」
          
          「…港町?」
          
          「…うん……」
          
           その瞬間、記憶の彼方に置き去りになっていた、アルモとのはじめての記憶が鮮明に思い出され、俺の顔は熟したトマトのように真っ赤になった。
          
          「あっ……ああ、あのことか…」
          
          「…あのこと……って?」
          
          「…酒場のことと……ワイギヤ教軍に袋小路で追い詰められた時のこと……だけど…」
          
           俺の言葉に、アルモは黙って首を縦に振る。
          
          「あの…ね……私、どっちも嬉しかったんだ。酒場では、君と同じものを飲んで食べて、同じ時を共に生きているってことが実感できし、袋小路のあれは、咄嗟の判断からだったけど、その…君と一つになれた気がしたから…」
          
          「…」
          
          「迷惑……だったかな………」
          
           アルモの顔に、一瞬陰りがさす。
          
          「…迷惑!?何でそんなこと言うんだ!!」
          
           思わずあげてしまった大声に、アルモの顔から陰りは失せ、きょとんとしている。
          
          「そんなこと、言わないでくれ!!!俺だって…その……」
          
          「君だって……何?」
          
          「……嬉しかったんだ!酒場のことも…それに、袋小路でのことも!」
          
          「…なら……良かった」
          
           輝く太陽のような笑みを浮かべるアルモ。
          
           それを見た瞬間、俺の体は勝手に動いていた。
          
          「…」
          
          「…」
          
           俺の両手から、赤く色づいたアルモの頬の熱が伝わってくる。
          
          「…これで……お相子…だろ!?」
          
          「…君って………案外意地悪だったんだね」
          
          「…嫌か?」
          
          「別に♪」
          
           その後、他愛もない会話の後、旅の疲れからか二人ともいつの間にか寝てしまったのだった。
          
           そして翌日、俺とアルモは三人を宿に残して、王都近くの山中にあるという三日月同盟本部を目指し出発したのだった。
          
          
          第9話 に続く